まえがき~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・・・。
うつ伏せに倒れているノームがいる。
最後の力で書いたと思われるメッセージ↓
今回でNo.3は終わりよ・・・何回も言ってるとは思うけど、
習慣的に言っておくわね・・・。
この記事も長めよ、紅茶でも飲みながら読んで頂戴。
悪くない・・・ノーム生だったわ・・・。
T「ほら、遊んでないで起きな!」
ゲシッ
「痛い・・・。」
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「情けない姿だねぇ・・・。」
急に声をかけられ、俺は振り向こうとした・・・が体が言うことを聞かなかった。
静かに!と小声で言い、俺の胸に手を当てて何か呪文のようなものを口ずさみ始める。
・・・女ノーム?体格が少し一般的規格以上に丸みを帯びているように思えたが、口には出さなかった。
彼女が唱えていたのは回復の呪文の様で、徐々にではあるが痛みが引き、体が軽くなっていくのを感じていた。
「・・・まったく、あの女をこらしめてやろうと思って後をつけてきたのになんて展開だろうね。ほら、めそめそしてないであの女を助けてやりな。こらしめるのはその後でも遅くないしね。」
といい、手を離すグラマーノーム。
話しの内容は怖いが、助けられたことに変わりはない。
俺は近くに転がっていた愛用の槍を手に取り、立ちあがりこう叫んだ。
「・・・その手を離しやがれ、変態野郎め。」
「クフフ、まだ立ち上がれるだけの気力が残っていたか。そのまま這いつくばっていれば少しは長生きできたものを。」
女記者ナナイを離し、こちらに向き直る覆面男。
当然彼女は落下し、したたかに腰を打ったらしいが気にしている場合では無かった。
「望み通り、貴様から灰にしてやろう。それともこま切れがいいか。
クフフフフ。」
と言うや否や、今度は覆面男がこちらに向かって来た。
杖を構えており、ヤツも全力というわけだ。
グラマーノームに危ないから下がっていろと声をかえようとしたが、
すでに姿が見えなかった。なんてすばやさだ、あの体格で。
よくよく考えてみれば、俺はなめられていたわけだ。むしろ俺たち全員が、だ。魔法使いが武器を武器を構えて向かってくるなんて言葉にしたっておかしい。
何度かやりと杖を打ちつけ合い、やつの炎の矢をかわし
(それも至近距離で!出来過ぎだった)アーストレマーもかわした。
それだけで肩で息をしている俺に対し、覆面男は汗一つかいていなかった。実力の差は歴然だった。
ボス、ボス・・・と音がする。離れた位置からアッキーが
炎の矢の魔法を撃ち続けており、それが覆面男の背中に当たる音だった。
アッキー渾身の魔法を覆面男は完全に無視して、
俺に杖を打ちこんでくる。この時点で俺は防戦一方だった。
「無駄なあがきはよすんだな。この俺様と打ちあえたことを
あの世で自慢するがいい。仲間はいっぱいいるはずだ。
貧弱な冒険者風情が手間をかけさせおって、楽に死ねるとは考えるなよ。
苦しみぬいて、おれを恨んで死ぬがいい!クフ・・・グア!」
どぉん!と大きな音と共に耳障りなセリフが途中で終わり、あたりには静寂が訪れた。
・・・勝負はあっけなくついた。
勝者はマッピー。それとアッキーか?駆け寄った彼女はどうやらポーションを飲ませていたらしく、俺と覆面男が戦っている最中に目覚めたマッピーが、ひときわ大きな柱のガレキを持ち上げ、覆面男に投げつけた!
それが見事に覆面男の背中にストライク!というわけだ。
3球を待たずに一撃ノックアウト。ゲーム終了となった。
あ、っと言う間もなく、柱に押しつぶされた覆面男がピクリとも動かないことを確認した俺は、これまた情けないことに腰から崩れ落ちてしまった。アッキーもマッピーも同様だったことが、まだしも救いだった。
不思議な事に笑いが込み上げてきて、俺はそれを抑えることが出来なかった。
くくく・・・から始まり、ついには大声で笑い出してしまった。
つられる様に笑い出すアッキーとマッピー。やっぱ仲間っていいもんだよな。
そのまましばらく笑っていると、いつの間にか俺のそばにナナイが立たずんでいた。
おう、大丈夫だったか?と声をかけるまもなく、彼女がまた意外な行動にでたのだった。
なんと俺に抱きついてきたのだ!正面から抱き合う形となった。
そして、泣きじゃくりながらごめんね、ごめんね・・・と繰り返し謝る彼女に対し、俺は頭をなでてやることすらできずその場に固まるしかないのであった・・・。
~ エピローグ ~ 大団円
いつの間にかいなくなったと思っていたグラノームさんだったが、街に戻って冒険者ギルドに連絡をしてくれたらしくしばらくするとギルド職員と衛兵を連れて戻って来てくれた。
どうやら、この覆面男は冒険者を襲う強盗であり、貴族の邸宅に忍び込んでは金銀財宝を盗み出す泥棒であり、殺し屋でもあるという絵に描いて額縁にいれて題名をつけるとすると、誰もが極悪人と書き込むであろう人物であった。
当然、指名手配犯であり、驚くことに世界的指名手配犯だった。
証拠を一切残さぬ綿密さ用意周到さ、表には一切姿を見せない隠密性、そして洗練された戦闘技術とその腕前・・・どれをとっても超一流であり、当局もそうとう手を焼いていたらしい。
それが、それ程の人物がこんなところでこんな形で捕まる事になり、
当人もさぞかし困惑したことであろう。
もちろん冒険者ギルドは大喜びで、さっそく覆面男を連行しにかかった・・・
はずだった。驚くべきことに覆面男はまだ生きていた。
やっぱ超一流は体の鍛え方も超一流というわけか。だが、柱に押しつぶされた衝撃で動くことも意識さえも無かった。
ギルド職員と衛兵の合せて4人で、ガレキの柱をどかそうとしたがびくともしない。
これをどかせるのはおそらくただ一人しかいないであろうが、当人は素知らぬ顔で座り込んでいる。温厚な紳士でも、さすがにこの悪党には腹に据えかねるものがあったんだな。
気持は分かるがこのままではラチがあかないので、マッピーに頼み込み、しぶしぶではあったが柱をどかせてもらった。
この時の職員と衛兵の唖然とした顔は、まさに見物だった。その後、マッピーに対する態度と口調が丁寧になったのもうなずける話だ。
俺は・・・俺はまだ泣き続ける彼女に抱きつかれたまま、覆面男から柱がどけられ、連行・・・というかかつぎ運ばれるさまを見送ることになった。
マッピーとアッキーも職員と一緒に行ってしまったので、この場には俺たちだけだ。2人が立ち去る際に、おかしな笑みを向けていたことがやけに気になる。
余計な気を使いやがって。どうしたって勘違いだから、後でよく言っておかないとな・・・。
・・・どれくらい時間がたったのだろうか。ようやく落ち着いた彼女はゆっくりではあるが顔を上げた。目の周りがかぶっているサンタ帽子と同じ色ではれている。
何かを言いかけたのでそれを俺は制止し、彼女に立ちあがるように即した。
俺たちは立ちあがり、服の袖で涙を拭いている彼女の肩に手を置き、こう言った。
「さあ帰ろう。みんなが待ってる。」
静かにうなずく女記者ナナイ。俺たちは並んでその場を立ち去った。
・・・その後、宝箱をそのまま放置していることを思い出し、全速力で駆け戻ることになったことを、俺は誰にも話していない。2人だけの秘密だ。当分は。
宝箱の中身は、俺が予想した通り、覆面男がルートしたものが詰まっていた。そればかりではなく盗品である貴金属類も大量に入っており、まさに隠された財宝といった面持ちであった。
これらは全て盗品である為、一時冒険者ギルドの管理下におかれ、その後持ち主に返されるということだ。
まあこればっかりは仕方が無いことで、盗品と分かった以上さすがに俺たちも自分の所有権を主張する気にはなれなかった。
それでも女記者ナナイが何かを言い出しそうであったので、俺が口をふさぎ、アッキーが手を押さえ、マッピーがその身をかついで退散し、事無きを得た。素晴らしいチームワークであったことをここに明記しておく。
骨折り損のくたびれ儲け・・・とはならなかった。
なんと俺たちはディメント城に招待されたのだ!これまで、お金が無くて宿屋の馬小屋という名前のふきっさらしの中で凍えながら夜をすごしてきた俺たちが、貴族の邸宅どころか何段階もすっとばして王様と謁見できる光栄に浴することになろうとは!
・・・結果的に王様にお会いすることは適わなかったが、それでも某大臣の執務室に招かれ、ひとしきり感謝の言葉を頂戴しほうびとを頂く運びとなった。
それだけでも俺たちは感激し、しどろもどろになりながらもなんとか返事をし、怪しい足取りで帰ってきたのであった。
だがこれだけでは終わらなかった。ナナイの勤め先である押売新聞社が独占スクープとして大々的に紙面に載せたのだ。
おかげさまで、イルファーロの街でおれたちは一躍有名人になってしまった。
全く知らない人に呼び止められて感謝の言葉をかけられたり、見知らぬ冒険者から賛辞を受けたりといったことがたびたびあり覆面男がいかに迷惑な存在であったかを知り、俺たちの行為が世間の役に立てたことが、なにか誇らしかった。
一夜にして世界が一変し、これまで成功者を妬むだけの存在であった俺たちが、妬まれる存在に変わった。よく考えてみるとそら恐ろしいことだ・・・。
まあ、これまでの苦労が報われたんだと思うことにしよう。そのほうが健全で前向きだ。
その後の俺たちは、受けた傷も決して浅くはなかった為、休養と称してしばらくはゆっくりしていた。
何しろ希望通りに日々の生活を心配しなくてよくなったのだ。宿屋で普通の部屋に泊まり、3食腹いっぱい食べられる。
こんなことが幸せだと思えるくらいに貧窮した生活を送っていたんだなぁ・・・。
ある日の夜、俺はマッピーに酒場に呼び出された。
何か大事な話があるとのことで、俺は多少緊張しつつも約束の時間に到着した。
すでに店内は賑わいを見せていたが、窓際の席にマッピーとアッキーの姿を見つけることが出来た。
まずは乾杯しお互いに喉を潤すと、ゆっくりではあるがマッピーが語り始めた。
彼は冒険者を辞めて、他国へ渡るのだと言う。元々食う為に冒険者になったそうで、マッピーには夢があった。
それは武器商人となり各地を回り、ゆくゆくは自分の店を持ちたいのだという。
彼の類稀なる怪力を知るギルド職員が聞けば、あらゆる手段を講じても冒険者であることを辞めさせなかったに違いない。
話の内容は驚くべきものであったが、なんとなく頷けるものもそこには存在した。
うまく言葉には表せないが、博打のような冒険稼業よりも、手堅い商売のほうが彼には似合っている気がしたのだ。
きっと真面目で誰からも信用される商人になるに違いなかった。
それ以上に驚かされたのがアッキーの話だった。なんとマッピーについて行くのだという。
「物堅い性格に見えてさ、結構抜けてるとこがあるんだよ。私が面倒見てやらないと心配でね!ただの親切心だよ、変な勘ぐりはしないでおくれよ!」
・・・どう見ても照れ隠しとしか思えなかったが、あえて口にはしなかった。なによりマッピーがニコニコしながら聞いているのだ。
俺が何か言えるものでもないだろう。とはいえ、アッキーが一番年下のはずなんだがなぁ・・・。その姉さん肌は天性のものだな。
出発は明後日とのことだった。ずいぶんと急な話だが、このところの悪天候で船の定期便も少なくなっており、やっとのことでチケットを手にしたのだという。
そうか、いい旅になるといいな。きっと見送りに行くよと告げ、その日俺たちは酔いつぶれるまで飲み続けたのであった。
出航の日、俺は約束通り港まで2人を見送りに行った。女記者ナナイも少し遅れて到着した。特にかわす言葉はなかった。俺たちはお互いに握手を交わし再会を誓い合ったのであった。
ナナイが気を利かせて、長旅になるだろうからと押売新聞社発行の雑誌や書籍を手渡していた。その中には俺たちの冒険譚が記された冊子まであり、問い質してみると彼女が書いたものだという。
俺たちは顔を見合わせ苦笑したが、そこはマッピー、
ありがたく受け取るのであった。
船は大きく帆を張り出した。イカリが徐々に引き上げられ我先にと乗員が乗り込んでいく。
いよいよ出航の刻限となったのだ。2人も船に乗り込み、甲板からこちらを見下ろしている。
アッキーが手を振り、マッピーはいつもの温和な表情を浮かべたままこちらを見つめていた。
船が動き出し、港から離れていく。その時になって俺は大声で叫んだ。
「2人とも元気でなー!仲良くやれよ、次会う時には2世の顔を拝ませてくれよなー!」
「ば、ばかなこといってるんじゃないよー!このばかやろう!!」
アッキーが叫び返してきた。ここからでも顔が真っ赤であることが分かった。
だが俺は見たんだ。甲板に上がってからずっと2人が手をつないでいるところを。もちろん誰にも言わなかったが。
こうして俺たちは離ればなれになったわけだが、最初から出会わなかったことに比べればなんと実りの多い出会いであった
ことだろうか。やっぱり仲間っていうのはいいものだよな。
俺とナナイは水平線のかなたに船が小さく消えていくまで見つめ続けていた。
いよいよ、船の姿が見えなくなった頃、彼女がそっと手を繋いできた。
俺はその手を握り返し、船が消え去った海を見つめ続けたのだった。
~ END ~
おまけ
女記者ナナイの書いた冒険譚は・・・それはそれはひどいものだった。彼女が大活躍の冒険活劇へと変貌を遂げていた。
世界的指名手配犯の逮捕劇の為、冒険者ギルドや王国守備隊からも公的な発表がされており、現実とかけ離れた内容の本は、当然各方面から痛烈な批判を浴びた。
おかげで過剰な編集長は大激怒、ナナイはしょんぼりし、たまたまイルファーロに残っていた俺が手記を書くはめになった。
事実に即して書いたつもりだが、俺・・・私の主観による部分が多いのもまた事実である。
・・・ちなみに冒頭の文章は、説明するまでもないがナナイの書いた冒険譚の序章だ。
そのまま引用させてもらったが、特に他意があるわけではない。
このお話はフィクションであり、登場する固有名詞、団体名等は「おそらく」架空のものです。実際の人物及び団体等と直接の関係は「ほとんど」ございません。
[2回]
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